「誕生日おめでとう、高耶!」
「・・・おい」
「こんな状態だからあんまり凝った事出来なかったけど・・・」
「」
「折角のお誕生日だから、色つきソーメンにしてみました〜♪」
「こりゃ冷麦だ!!」
バンッとテーブルを叩いて正面に座っている右手首に包帯をぐるぐる巻いている恋人を睨んだ。
「えー!!これ、色つきソーメンじゃないの!?」
「冷麦だ!太さが違うだろうがっ!」
「・・・たまたまこれだけ太さ間違えちゃったんだよ、店の人が。」
「それ、マジで言ってんだったらぶん殴るぞ?」
「う、嘘っ!」
わざと拳を作っての前に差し出せば、即座に両手で頭を庇う。
条件反射もそこまで行けば特技になるぜ・・・ったく。
音を立てて腰を下ろしチラリとの様子を伺えば、様子を伺うようにじーっと俺の顔を見つめている。
「何だよ。」
「・・・高耶、冷麦嫌い?」
「いや、別に嫌いじゃねぇけど・・・」
「ホント?良かった!!」
ついさっきまでのへこんでた顔が一気に笑顔に変わる。
それにつられるように俺の頬も緩みかけたが、ふと視界に入ったの右手を見て、自分が何故怒鳴りつけたのかを思い出した。
「って、冷麦の話はどうでもいいんだよっ!」
「え?」
すかさずの額にでこピンをくらわせ、包帯が巻かれた右手を指差した。
「怪我人が何無茶してんだって言ってんだよ!!」
ついこの間、すっ転んだ時ついた手を器用に捻挫して、全治一週間という診断を医者から下された。
その結果、の右手首は現在しっかり固定され、包帯でぐるぐる巻きになっている。
「高耶のでこピン痛いんだから止めてっていつも言ってるでしょ!?」
「じゃぁ俺にでこピンさせるような事させんなよっ!」
「だって折角の高耶の誕生日、何もナシって訳にはいかないじゃない!」
「俺の誕生日を祝うってんなら、自分の体を大切にしろ!」
「・・・それ、どういう意味?」
口にしてから売り言葉に買い言葉で、自分が余計な事を言ってしまった事に気づいた。
慌てて口を手で塞ぎ、くるりとに背を向ける。
「ねぇ、高耶〜」
「・・・」
「高耶ってば〜」
「・・・」
が何度呼んでも振り向かず、何とかこの場を切り抜けようと頭を働かせるが・・・生憎直江や千秋のように土壇場の言い逃れが出来る程、脳の回転はよくない。
ましてがそれに気づかないはずは無い。
思ったとおり、テーブルを挟んで向かいにいたが足元の荷物や脱ぎ散らかした俺の服を踏み越えて近づいてきた。
「たーかや♪」
「・・・何も話す事なんてねぇよ。」
「えー、さっき言った言葉の意味、知りたいな〜♪」
「何も言ってねぇよ!」
「自分の体を大切にしろ、って言い切ってくれたのに?」
背後からのしかかるようにして、肩口から顔を覗かせるの表情は何処か小悪魔的だ。
「ねーねーねーっ!」
「・・・暑苦しいからどけよ。」
「え〜」
「いいから、背中から降・り・ろ。」
「・・・分かった。」
俺の声色で判断したのか、が素直に背中から降りてくれたのでホッと胸を撫で下ろす。
夏場なんだから薄着になってる事くらい自覚しとけよ!
真昼間からそんな気になったらどうしてくれる!
いや、まぁそれはまたそれで構わねぇけど・・・という不埒な思いを抱いた瞬間、俺の頭の上にガサリと音を立てて袋が置かれた。
「?」
不安定な頭の上に置かれた袋は、すぐに俺の前にガサッと音を立てて落ちてくる。
「・・・何だ、これ。」
包装紙を見ても中身が分からず、恐らくこれを置いたであろうの方を振り向けば笑顔で両手を俺に差し出していた。
「誕生日プレゼント」
「は?」
「冷麦はともかく、本命はそれだよ。」
「・・・」
「高耶が気に入ってくれると嬉しいんだけど・・・」
――― が選んだ物なら、何でも嬉しいぜ
けれど天邪鬼な俺はそれを口にする事ができず、ただ渡された袋を無言で開きプレゼントを見た。
「・・・マジかよ。」
袋の中に入っていたのは、前に俺が街で見掛けた時に目をつけていた・・・ライダー用の皮手袋。
ちょうどバイクの部品を交換したりして出費が重なっていてその時は手が出なかったけれど、いつか買おうと思っていたやつだった。
「嬉しい?」
「嬉しいに決まってんだろ!」
早速取り出し、手にはめてみる。
今までのよりピッタリ自分の手になじむ感覚が気持ちいい。
これでようやくあのぼろくなった皮手袋ともおさらば出来るぜ!
両手に手袋をはめたまま、さっきまで自ら背中を向けていたと顔を合わせる。
まるで自分の事のように笑みを浮かべているを見たら、自然とこの言葉が口から出てきた。
「サンキュ。大切に使うからな。」
「うん!」
「でもこれ、結構高かったんじゃねぇか?」
「ま、ね。でも折角の高耶のお誕生日だもの、高耶が本当に好きな物あげたかったんだ。」
あはははは、と声をあげて笑うを見ると・・・敵わない、と思う。
普段は手のかかる女で、時にはガキみたいな我侭や愚痴をこぼす。
けど、やっぱ相手を思いやる事に関して、俺はには敵わない。
「喜んで貰えて嬉しいよ。」
右手が不自由な状態でも、俺の家に来て料理を作ってくれた。
そして、これを・・・持って来てくれた。
荷物になるだろうから怪我が治ってからでも良かっただろうに、な。
そんな事を考えながら俺は手にはめていた皮手袋を外すと、大切にバイクのメットの横へ置いて立ち上がった。
「・・・。」
「ん?」
「あー、さっきは・・・悪かったな。」
「・・・え、何?」
「その、怒鳴ったりして・・・」
お前なりに精一杯祝おうとしてくれた気持ちを踏みにじった気がして、視線を逸らしながらボソボソ呟けば、が左手で俺の頭をそっと撫でた。
「無茶して高耶に心配かけちゃったあたしも悪かったの。・・・ごめんね?」
「・・・俺も、ごめん。」
二人で頭を下げて、同時に顔を上げて視線が合った。
さっきまで見つめあう事すら照れくさかったのに、今は少しでも視線がそれるのが惜しい。
ゆっくり、ゆっくり顔を近づけていけば・・・自然とが瞳を閉じた。
それにあわせるよう俺も瞼を閉じて、の吐息を唇に感じ始めた瞬間・・・大きな声が外から聞こえたと同時に部屋の扉が勢い良く開いた。
「仰木くん!お誕生日おめで・・・あれ?」
「・・・」
「・・・」
至近距離でと顔を寄せ合いながら、お互い視線だけ声の主の方向へ向ける。
「あら、やだ・・・取り込み中?」
「・・・森野、てめぇなんでここにいやがる。」
顔を隠しながらも指の隙間からしっかりこっちを見ている森野を睨むと、背後から申し訳なさそうに譲が顔を出した。
「・・・ごめん、高耶。」
「譲っ!?何でお前まで・・・」
「今日高耶の誕生日だろ?さん怪我してるから、何か手伝える事無いかと思ったんだけど・・・」
申し訳なさそうな顔してっけど・・・譲、目が笑ってねぇぞ?
――― ただ、邪魔しに来たんじゃねぇだろうなっ!!
そんな俺の事などお構いナシに、森野は真っ赤になりながらバシバシと部屋の壁を叩いている。
「やっだぁ〜仰木くんってば!さんいるなら言ってよ!」
「彼氏である俺の部屋にがいるのは当たり前だろうが!っつーか森野!人の家のドアぐらいノックしてから開けやがれ!」
「鍵かけてない仰木くんが悪いんじゃない!」
「いくら高耶でもちゃんと鍵かけておかないと、いざって時まずいよ?」
「きゃーっ!やだやだー成田くんってば!!いざって時ってなぁにぃ〜!」
譲、お前は話をまとめてるのか、引っ掻き回してるのかどっちだ!!
ため息さえも出ない状況で、この場をどうすればいいのか迷った俺の肩に包帯の巻かれた小さな手が乗せられた。
「ちょうどいいから皆で高耶の誕生日祝い、やろうか。」
「お、おい・・・」
さっきまでの雰囲気はどうすんだよっ!それにあの・・・冷麦は!?
「すぐに準備するから譲くんと森野さん、下で待っててくれる?」
「分かりました。」
「え?さんも一緒!?うわぁっ嬉しい!!」
「じゃぁちょっと待っててね。」
こういうのを大人の余裕、とでも言うのだろうか。
譲すらも丸め込めるような優しげな笑みを浮かべたが、静かに部屋の扉を閉めるとすぐに荷物を準備し始めた。
「・・・。」
「高耶は準備出来てる?」
「っつーか、いいのかよ・・・お前。」
「・・・何が?」
きょとんとした顔をして小さなバッグを手に持ったが首をかしげている。
――― さっき閉じた目は何だったんだ!?
そう思わずにはいられない状況に目を回しながら、ただその場に立ち尽くしている俺の頬に・・・そっと柔らかなモノが触れた。
「・・・お友達との誕生会の後は、もう一度あたしと誕生会やってね。」
「・・・」
「じゃ、先に譲くん達の所行くよ。」
僅かに赤くなった頬を手で仰ぎながら、は足早に部屋を出て行った。
階下ではを出迎える譲と森野の楽しそうな声が聞こえるけれど、今の俺はその場で頬に手を添える事しか出来ない。
「・・・っくそ!帰ったら覚えてろっ・・・」
珍しく大人の女のリードに丸め込まれて潰れた男のプライドは、夜に取り戻してやるぜ!
そう心に決め、部屋の鍵と財布だけをズボンに押し込んで達の下へ向かう。
リードを取るも取られるも、相手が好きなヤツなら・・・楽しいゲームだ。
★ Happy Birthday ★
仰木高耶
高耶、お誕生日おめでとぉ〜♪(一日早いけど←本当は7/23(笑))
考えてみれば去年はWデート企画で高耶の誕生日を祝ったんだったなぁ(しみじみ)
という訳で、今年は高耶の誕生日を・・・譲と森野と3人で祝う事にしました(爆笑)
あははははは、高耶かーわーいーそぉ〜(笑)
えー、勿論譲は故意に邪魔してますよw
森野は譲に上手い事言われて便乗してるだけ(笑)
何故か森野を書いているのが・・・凄く楽しかった覚えがあります(苦笑)
ちなみにそうめんと冷麦の違いに暫く首を傾げていたのは私です。
いや、今はちゃんと分かりますけどね?
昔は「・・・なんで表記が違うんだ?」と真剣に腕組みしてスーパーで考え込んでましたから←お馬鹿。
今年は『契』シリーズの高耶バースデー便を頼みました。
誕生日前に到着したので、お誕生日の日は・・・ワインは飲めませんが、シャーベットを食べて心の中でこっそりひっそりお祝いしたいと思います。